| 1.一つは、か弱く、繊細な味したクリオロ種もう一つは粗野で乱暴なフォラステロ種 | |
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いいか、ぼくの可愛いいもうとたちよ チョコレートのげんりょうである カカオには 大きく分けて 二つの種類がある 一つは、か弱く、繊細な味したクリオロ種 もう一つは粗野で乱暴なフォラステロ種 もちろん味が複雑で、マイルドなのは クリオロ種 のほうだ チョコレートの神は こういうふこうへいを カカオにもあたえた |
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| 2.クリオロ、フォラステロどちらともカカオであることにちがいはない | |
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ものにはなまえがある それは ひととひと ものとものとを 区別するためだ にたようなかたちをしたものどうしは おなじものだとされる そのためになまえがある クリオロ、フォラステロどちらともカカオであることに ちがいはない が おいしいものを だれだってたべたいと思うだろう おいしいもののほうが 価値があると思うだろう |
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| 3.そもそもこのカカオをメソアメリカの民にもたらしたのはケツァコルアトル(Quetzalcóatl)という名前の神 | |
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さて そもそもこのカカオ を メソアメリカの民 にもたらしたのは ケツァコルアトル(Quetzalcóatl)という名前の神 メキシコ中部古代トルテカ文明の かみだ 人間に火をもたらしたのも彼だと ナワ族の伝承にある |
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| 4.人間は初め火というものを持たなかった。 | |
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「人間は初め火というものを持たなかった。 だから鳥や獣をてにいれても 生のままで食べなくてはならぬし 寒いときには ひどいくるしみをうけねば ならなかった ケツァルコアトル神がそれを見て、非常にかわいそうだ と考えた。 ある日ケツァルコアトルは、人間たちを呼び集めて 「今日はわしがお前たちに大変便利 なものを こしらえてやる」 |
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| 5.どんどん食物を出してくれる器でございましょう | |
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といった。人間たちは喜んで 「ありがとうございます。その便利なものと申すのは、い ったいなんでございます?」 と尋ねた。ケツァルコアトルはにこりと笑って 「何だか お前たちのほうであててみるがよい」 といった。人間たちは互いに顔をみあわせて しきりに考えていたがやがて一人の男が 「わかりました、すばらしい投槍でございましょう?」 といった。「違う」とケツァルコアトルが頭をふった。 「では、どんどん食物を出してくれる器でございましょう」と また一人の男が言った。「違う」とケツァルコルトルが頭をふった。 |
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| 6.これさえあれば、鳥や獣の肉も生で食べるよりずっとうまくたべられるし寒いときも気持ち良く日を送ることができる | |
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人間たちは不審そうな顔をして 「それでは何でございましょう。早く教えてください」 と叫んだ。ケツァルコアトルは明るい微笑をみせて 「火というものだよ」 といった。 「え、火ですって?火というのはどんなものでございます? そして何になるのでございましょう?」 と人間たちが口々に尋ねた。 「血のように赤くて、太陽の光のように明るく あたたかいものだよ これさえあれば、鳥や獣の肉も 生で食べるよりずっとうまくたべられるし 寒いときも気持ち良く日を送ることができるのじゃ」 |
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| 7.ケツァルコアトルはこういって、火を人間にあたえた | |
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これを聞くと、人間たちは飛び立つほど喜んで 「大変結構でございま すね。どうか早くそれをこしらえ てくださいませ」 といった。 ケツァルコアトル はだまって、足に穿いていた靴 をぬいだ。そしてそれをさっとうち振ると 血のように赤くて 太陽の光の様に明る くあたたかなものが とろとろと燃えだした 「これが火というものだよ。大切にするがいい」 ケツァルコアトルはこういって、火を人間にあたえた こうして人間世界にはじめて火というものがあらわれた。 |
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| 8.わたしはケツァルコアトルが、カカオをもたらした神だとのべた | |
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さあ、妹たち、わたしはケツァルコアトルが、カカオをもたらした神だとのべた そのさいに、その左手にかかえていたのは、クリオロ種(甲種)か、フォラステロ種(乙種)か 歴史は、私に語ってくれているか? しかしおそらく、クリオロ種であったのではないか とかんがえる |
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| 9.ケツァルコアトルは王国からの追放を余儀なくされる | |
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わたしがその根拠とするのはこうだ ケツァルコアトルがトルテカ(メキシコ中部)の民に 人間にはじめて火を与えた神 だといったが、トルテカの伝承によればかれは とうもろこしや、うつくしい花ばな さまざまなものを人間にあたえた豊穣(ほうじょう)の神 である そしてなにより、平和を愛した が、そのために ケツァルコアトルは神としての地位をうしなう ケツァルコアトルは生け贄をすることにはんたいし その考えに敵対する、テスカトリポカ(畏怖の神)に 酒(オクトリ(プルケ(スペイン語である)))をのまされ、酩酊し、淫行にふけるようになり やがて 王国からの追放を余儀なくされる |
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| 10.古代メソアメリカのひとびとにとって酩酊するということは致命的なことだった | |
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古代メソアメリカのひとびとにとって 酩酊する ということは致命的なことだ った はめられたとはいえ 神の台座から 追放される身となったケツァルコアトルは そのまえに 人間にあたえた カカオの木をすべて、雑木にかえたという おそらくこれで、クリオロ種の数は激減したのだろう あるいは、神の食べ物 であるテオブロマ(これはギリシア語だ) メソアメリカのネクトル(これも、ギリシア語だ) はここで消滅したのかもしれない |
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| 11.先住していたトルテカの民は後発のアステカの民とたたかうことになる | |
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ケツァルコアトル(ククルカン)=龍、またはへびの神、豊穣をあらわす テスカトリポカ=ジャガーの神、畏怖をあらわす テスカトリポカは、アステカの神である これらは単なる神話ではなくて 実際の話とリンクしている 先住していたトルテカの民は 後発の アステカの民とたたかうことになる |
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| 12.戦いはアステカの圧勝だった | |
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戦いはアステカの圧勝だった のちにスペイン人が、心臓をジャガーの神にささげるといった 悪名高い アステカの文化が、メキシコの地に花開いたのだ アステカは、メソアメリカの西北 敗北したケツァルコアトルは、追放された神 としてその名をのこし 東のマヤ文明においては ククルカン(Kukulcan)の名で呼ばれ ユカタン半島の北部 チチェン・イッツァに今もまつられている |
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| 13.モクテソマ王は、一日50杯のカカワトルを欠かさなかった | |
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本当の神の食べ物 は、今では失われてしまったのかもしれない しかし、カカオは、甲種乙種ふたつの種類を もって、アステカの地に 根をおろした 王が飲むカカオは、もちろんクリオロ種である 数がすくないものは、多くの人が味わえないため 自然と、価値があがるものだ そして、高貴だといわれるひとびとも 数がすくない 数がすくないから、価値があるのか 価値があるために、数が少なくなるのか ともかく 王が好んだカカオはクリオロ種である アステカ王はそれを好んでのんだ モクテソマ王は、一日50杯のカカワトルを欠かさなかった という。 神に、もっとも近い男 |
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| 14.テノチティトラン(Tenochtitlan)そこを統治したモクテソマ王当時人口30万人世界でも有数のマンモス都市 | |
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戦士はそれを飲めば夜通しの行軍をやすやすとやってのけ 貴族がそれを飲めば、強壮と催淫の意味があったという神秘の飲み物 カカワトル アステカ、いや、メソアメリカじゅうで最大の都市テノチティトラン(Tenochtitlan) そこを統治したモクテソマ王 当時人口30万人 世界でも有数のマンモス都市だ そこに流れ着いたのがかのスペイン人たちである |
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