FICTIONS >> 桐壺 2.桐壺の弔いと残されたひとびと

全般的に、フィクションです

最新更新日時: 2011年12月31日 18時06分
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10.限りあるのが俺たちで、誰もハビタスに逆らっていきることはできやがらない
限りあるのが俺たちで、誰もハビタスに逆らっていきることはできやがらない、あいつの母親の北の方は、あの煙になって一緒にいきたいと泣き焦がれるし、女房の車に慕い乗り、愛宕へいっていかめしく作法をやりに、着いたときはどんな心地がしやがったのか。

むなしき骸を見ても、まだいらっしゃる気もしていて、それではいけませんので、灰になったところを見させていただければ、もうここに居ないのだとひたぶる分かりましょうし、

と、賢しく云いやがるが、乗れば車から落ちるかというぐらいまろびやがるし、やはりそうかと、連中も煩いきこえた。
作成: 2011年01月17日 23時04分 / 更新: 2011年01月30日 10時56分
11.失くしてみなけりゃ分からない、それってホントによくある話だよな。
内裏から遣いがあって、三位の位が贈られるのを読み上げやがる時が、ばあさんの最も悲しかった時だ。女御だとも呼んでやれてなくて、口惜しい思いもしていやがったが、一階の位をと思って贈ってやったんだ。これだって恨みに思う奴らはいくらでもいた。もの思いを知る奴らは、あいつの様、容貌のめでたさ、心ばせのなだらかで目易くて、恨みにきれなかった事などを、今さらに思い出しやがる。
俺のざまをみて妬んだんだと。人柄のあわれになさけぶかい思いを、俺の女房どもも恋偲びあいやがっていた。失くしてみなけりゃ分からない、それってホントによくある話だよな。
作成: 2011年01月19日 06時24分 / 更新: 2011年01月24日 03時31分
12.はかなく月日過ぎて、とぶらいは滞りなく終わった。
はかなく月日過ぎて、とぶらいは滞りなく終わった。でもいくら経っても、悲しみなんて消えやしない。もう誰も呼ばず、ただ泣いて、ずっと泣いてすごしていたから、見てやがるやつも露っぽくなっていやがる秋。

亡くなった後も、胸くそあくまじけるような女のみおぼえだね

とか、弘徽殿のはまだ許せないみたく云ってた。一の宮の面倒をみるにしたって、あいつとのガキのほうが恋しくなって、ガキの女房だとか乳母を遣わしてありさまを聞いてた。
作成: 2011年01月20日 07時56分 / 更新: 2011年01月29日 23時29分
13.ハビタスがすべてで、空想なんか砂場のごはんと一緒で、リアルの前じゃ何の足しにもならないんだ。
野分立ち、にわかに肌寒い夕暮れのほど、常より思い出し出づること多くて、靫負命婦とかいうのを遣いに出した。夕月夜のおかしい頃に出だし立てさせて、あとは外を眺めていた。こんな時、よくあいつにアソビをやらせたもんだった、心ちがいの物の音をかき鳴らし、はかない言葉も、ほかの奴らとは違う容貌の、いろいろが思い出されるが、ハビタスがすべてで、空想なんか砂場のごはんと一緒で、リアルの前じゃ何の足しにもならないんだ

作成: 2011年01月20日 22時55分 / 更新: 2011年01月24日 03時32分
14.命婦はあいつの家につき、門から入ったところであわれな気配を感じやがる。
命婦はあいつの家につき、門から入ったところであわれな気配を感じやがる。やもめ暮らしになってしまったが、あいつのかしづきのため、とかく繕い立てなどして、目易いように過しやがっていたが、闇に暮れて臥し沈みやがるようになれば草も高くなり、野分に荒れる心地もして、月影ばかりが八重葎にも障はらず差し入っている。南面によこし、ばあちゃんはよくものをも言えず。

いままで止まって憂きを、このようなお遣いの(方の)蓬生の露分け入られるのを見るにつけて、たいへんに恥ずかしい心地です

と、つとに耐えられなくなって泣きやがる。
作成: 2011年01月20日 23時00分 / 更新: 2011年01月29日 23時31分
15.夢のようにずっと辿っていたが、やっと思いも静まってきた
参りますと、心苦しくなってこころぎもも尽きるようです、と典侍もお上に奏しておりました、物思うことのない私でも、忍び難い事でありますのに

ためらいがちに、俺の言葉を気声えやがる

夢のようにずっと辿っていたが、やっと思いも静まってきた、とおもったら堪え難い気持ちが続き、どうしたらいいんだろうかと、一緒にこんな話をできる奴がいなくて、忍んでやってきてはくれねえだろうか。ガキがおぼつかないで、露けき中で過ごすのも、心苦しくも思うし。ぜひ参ってきてくれねえだろか

とか、言葉は多くありませんが、むせかえりながらも、人に心弱く見られまいと、遠慮なくいうわけでもない御心づかいの心苦しさに、承り果ててないようでも、そのまま参りました。
作成: 2011年01月22日 10時10分 / 更新: 2011年01月29日 23時31分
16.目も見えなくなっていましたが、賢き仰せ言を光とします
目も見えなくなっていましたが、賢き仰せ言を光とします
で、御文をやった。

時もたちすこしうち紛れることもあるかと、月日待ち過ぐすのに添え、忍び難いのはわりなきわざだな。いわけないあいつをいかにと思いやりつつ、もろともに育まれないおぼつかなさを、今は、尚昔の形見になずらえて、一つ良きに計らってやってくれねえだろか。

など、こまやかに書かせておいた

 「宮城野の露吹きむすぶ風の音に
  小萩がもとを思ひこそやれ」

としたが、最後まで読めなかったと。
作成: 2011年01月24日 03時38分 / 更新: 2011年01月29日 23時31分
17.ガキはもう大殿籠もっていた。
 「命長さのつらさを思い知り、恥ずかしく思っておりますので、百敷に行き介はべりますことは、とても憚りが多ございます。賢き仰せ言をたびたび承りながら、自らはよういかれません。若宮は、どう思おし知るか分かりませんが、参らせていただくことを思い急いでおりますようで、そんな様子をかわいそうに思っておりますことは、うちうちに奏していただければと思っております。忌々しい私などが、そのようにおはしませば、忌ま忌ましうかたじけなくなりますので」

 と云いやがる。ガキはもう大殿籠もっていた。
作成: 2011年01月25日 03時38分 / 更新: 2011年01月25日 04時08分
18.暮れ惑う心の闇も耐えがたき片はしでも、晴くばかりに聞いていただきたいのです
拝見させていただいたこと、詳しい有様などもお上に奏させていただきたいのです。待っておいででしょうし、夜もふけてまいりました

といって急ぐ

暮れ惑う心の闇も耐えがたき片はしでも、晴くばかりに聞いていただきたいのです、私用などで心のどかにおいでくださいませ。昔は、嬉しいたよりのついでに立ち寄っていただいたのに、このような事でおいでくださるとは、返す返すもつれなきこのいのちにございます。
作成: 2011年01月26日 07時40分 / 更新: 2011年01月26日 07時43分
19.ただ、このひとの宮仕への本意、かならず遂げさせたてまつれ
 生まれし時より、思ふ心あった子で、故大納言は、今際のきわとなるまで、『ただ、このひとの宮仕への本意、かならず遂げさせたてまつれ。我れ亡くなりぬとて、口惜しう思ひくづほるな』と、返す返す諌めおかれましたので、捗々しい後見思う人も亡き交じらいでは、なかなかな事と念いながら、ただ彼の遺言を違えじとばかりに、あの娘を出だし立てはべらせましたのを、お上の身に余るまでの御心ざしの、萬にかたじけなきを、人げなき恥を隠しつつ、交じらわせて頂いて居たのであろうかと、人の嫉み深く積もり、安からぬこと多くなり添ひはべらせていただくに、横様になったようで、遂にかくのごとくなりましたから、かへりて辛くなりました、賢き御心ざしの事を考えますに。これもわりない我が心の闇でありましょう」
と云い終わらないうちにむせかえり、夜はふける。
作成: 2011年01月28日 07時52分 / 更新: 2011年01月29日 23時32分
21.ただあいつの形見として、かかる用もあればと残していやがっていた装束一領、髪上げの調度めく物
月は入り方、空清くすみ渡れるに、風は涼しくなり草むらの虫の声ごえ催し顔なり、立ち離にくきくき草のもとかと

命婦が
鈴虫の声の限りを尽くしても
長き夜飽かず降る涙かな
とやれば

「いとどしく虫のねしげき浅茅生に   露置き添ふる雲の上人
 かごとも聞こえつべくなむ」

 と言はせやがる。おかしき贈り物などあるやがる折でもなし、ただあいつの形見として、かかる用もあればと残していやがっていた装束一領、髪上げの調度めく物を添へやがる。

作成: 2011年01月29日 20時06分 / 更新: 2011年01月29日 20時06分
20.長い縁じゃないってことが、今はつらいあいつとの縁だな。
「主上もそう仰っておりました。『俺の心のことであるが、あながちに驚くばかりのことをしてきた、長い縁じゃないってことが、今はつらいあいつとの縁だな。奴らの心を曲げるような事は無いと思っていたが、ただあいつの事で、さるまじき野郎どもの恨みを負い、果て果ては、こううち捨てられて、心をさめむ方無くて、人悪く頑なになり果てたのも、前の世のゆかしさか』とうち返され、御萎たれがちにのみおはします」と語つきやがらない。
泣く泣く、「夜が更けました、今宵過ごさずに、お上に奏させていただきます」と急かし去りやがる。

作成: 2011年01月29日 19時06分 / 更新: 2011年01月29日 19時07分
21.はやく参内させた方がいいとかなんとかそそのかしやがる
若い奴らは、悲しいことは云うに及ばず、内裏渡りを朝夕に慣らした奴らだったから、まあ騒々しく、俺の事など思い出しやがって、はやく参内させた方がいいとかなんとかそそのかしやがるが、「忌ま忌ましきわが身が添ひたてまつるのも、いと人聞き憂かろう、また、若を見たてまつらでしばしもあらむは、いとうしろめたう」とばあさんのほうでは思いやがり、すがすがとはガキを参らせやがることができないでいた。
作成: 2011年01月30日 16時56分 / 更新: 2011年01月30日 16時56分
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